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2004
09 25(土)

村上春樹:アフターダーク

[ 二次元的行間之隙間:Book]

アフターダーク
(この感想は、一回読了後にとりあえず走り書きで書いているものである。)
村上春樹は、ある意味原点に立ち返って「映画」を書こうとした。
それは、紛れもなく村上春樹という作家のひとつのはじまりであり、終わりであろうと思う。

おそらく、賛否両論別れるであろうと思う。村上春樹という作家は、よかれあしかれ熱狂的なファンを持っているし、そういうファンはどのような事であれプラスに考えるものだからだ。(たとえばMacintoshのファンのように。ということは、村上春樹のよさは、Macintoshのような良さ、と言えるのだろうか。まあ、それはまたの機会に。)

そして、その「村上春樹らしさ」は、ひどく唯物的な舞台に置き、ルポルタージュやエッセイとは違う光を当てた時、「ロードムービー風」という形式を取らざるを得なかったのではないか。望むと望まざるとに関わらず。

村上春樹の「代表作」は、良くも悪くも60年台の作品だ。それを知らない僕は、それを一種のファンタジーとして読むし、知っている人は自分を投影させて読むだろう。「ねじまき鳥」や「世界の終わり」といった作品は、そのファンタジー性を拡張させた作品であったし、エッセイや「神の子どもたちはみな踊る」「アンダーグラウンド」といった作品は、現実へのフォーカスをより一層突き詰めた作品であったという印象がある。

「アフターダーク」は、その二つの世界を重ねあわせようとする試みだ。それは「少年カフカ」でも行われていた事ではあるが、正直、四国高知は僕にとってもファンタジーの中だ。(ある意味、「表参道の紀ノ国屋」も同じファンタジーの装置ではないか、と思うことがある。)それを、都会のデニーズの中(知っている人には、それが渋谷道玄坂を昇った右側の二階にあるデニーズではないか、と容易に想像できる。)からはじめることで、よりリアルな世界にフォーカスしようとした。そしてそこへ独特の不条理なシーンを挿入することで、現実の街という舞台装置を十二分に使い切ろうとした。(そしてその試みは失敗した。)
読者は、そのひどく丁寧な「ト書き」によってロードムービーのような画面を想像することができる。(作者が、あえて「カメラ」という視点を明示して導入していることからも、それが作者の意図であることは明らかだ。)それそのものが作者の目的であるかのような、そんな具合に。(と書いてて思ったのだが、この作品はまるで岡崎京子の漫画みたいだよな。)

例によって、作者の提示する全ての不条理に結末が語られることはない。いや、この物語そのものに結末が語られることがない。当然だ。日が暮れて、夜が更けて、真夜中になって、朝がくる。当然、また日が暮れる。結末などは存在しない。そこに何らかの救いはない。救いはただ暗示されるだけで、読者の指の間だからすり抜けてしまう。それをつかみ取ろうとすれば村上春樹の罠にはまるだけだ。
「これは僕たちの物語」だとどこかに書いてあった。だとすれば、僕たちの街に救いはなく、僕たちの毎日に救いはない。ほんのわずかの善意と、なにかのしるしのように流れる涙だけが、僕たちの救いを「ただ」暗示している。
そしてまた明日は来る。

おそらく村上春樹にとって、この作品は習作に留まるべきものだったのだろう。しかし、(おそらくはあえて)彼はこの物語を公開した。
なぜか?
それは、村上春樹の次の作品においてのみ明らかになるに違いない。

投稿者 ogre : 2004年9月25日 14:20



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コメント(5)

この感想はとりあえず走り書きしてますので、いろいろ論理に矛盾があったりいい足りないことがあったりしてます。

ちょっと間をおいて、他の人の感想も見たりして、それからもう一度、感想を書いてみます。

TBありがとうございます。
最後の「次の作品で明らかになる・・・」という予測に共感しました。私が本作品を読んで感じたのはとても断片的な小説だなということ。完全な小説の一部を抜き出したような小説という印象でした。次回作でこの余りの部分が読めたら非常に嬉しいだろうと思います。

コメントありがとうございます。
ひょっとすると、次回作以降、マリとエリの物語、白川の物語、ホテル「アルファビル」の物語、と、いくつかのブランチに別れていって、我々は延々とそれを読まなければいけない・・という罠にはまっているのではないか、という恐ろしいことも考えました(笑)

今回は失敗でしたね。

>しんちゃんさん
コメントありがとうございます。
なんだかフツーにフェードアウトした感じがしますよね。
商売的にはアレなんでしょうけど・・・これでおわりなのかなぁ。

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