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2006
05 28(日)

コラプシウム:ウィル・マッカーシー

[ 二次元的行間之隙間:Book]

コラプシウム
コラプシウム
posted with amazlet on 06.05.28
ウィル マッカーシイ Wil McCarthy 嶋田 洋一
早川書房 (2006/03)

文庫にしては分厚い方でしたので(なにしろ定価が1050円)ボリューム抜群の重厚SFを想像し、そして表紙を見てなんとなく訝しく思いましたが、内容的にはハードSFの要素を持ったスペオペ・探偵もの、という所でしょうか。
主人公は超物質「コラプシウム」の発明家にして大金持ち、海王星軌道のミニチュア惑星に引き籠もった厭世の科学者ブルーノ。彼が女王国となった太陽系「ソル女王国」の危機に際し、かつての恋人である女王陛下の頼みに応じ、女王国を救うが…とまあそんな話。
ハードSFな部分としては、現在の科学技術・知見の超延長上にあるとも言えそうな重厚なSF設定。陽子サイズのマイクロ・ブラックホールを安定配置した「コラプシウム」や、荷電によってどんな物質にも変化する「ウェルストーン」が、人間までもファックスできるようになった1000年後の世界を魅力的に描き出しています。とはいえ大きな特徴はそんなところで、微に入り細に入って世界を構築しているわけではありません。細かいところは「今と同じ」な、ラフな感じで書かれているので非常に読みやすい。ハードSFにしてはかなりの速度で読むことができました。また、特殊な用語、難しい用語については用語集が完備。ソル女王国の社会体制や呼称など、文中で説明すると冗長になりがちなところも用語集でうまく解決している感じです。

事件が起こる→主人公が出馬→活躍(?)→見事解決というアッサリした展開は、痛快もののスペオペにも通じるところがあります。ただし使っているのは光線銃じゃ本人の「驚異的な」脳味噌です。つまりは思いつきで太陽系の危機を救ってしまっているわけ。なので「ソレって他の奴らが無能なだけじゃぁ?」という感じに思えなくもありません。
何しろ人間がみんな不死になってるし、ファックスでいくらでも(人間が)コピーできる世の中なので緊迫感が生まれにくいです(でもどういう訳か主人公はコピーを持たないというご都合主義)。最後にはそのご都合主義を打破するためにいろいろやってます(笑)。

さて、Amazonのレビューでもレビュアーの方々が口々に指摘されていますが、この本の表紙になっているキャラクター「ヴィヴィアン」は、魅力的なキャラでもあり、作者もお気に入りという感じではありますが、いかんせん主人公でもヒロインでもありません。というか脇役。肉体年齢が(事故で)11歳の捜査局長、というアニメにでも出てきそうな唯一の萌えキャラ、というあたりが抜擢のポイントだったに違いありません。ありませんが…SFはそうまで読者に(というか市場に)媚びないと売れない時代なのでしょうか?(そういえば、谷甲州氏があとがきで「冬の時代なんて言うから不景気になるんだ!」って言ってましたが。)もういっそのこと全部ラノベのレーベルで売り出せばいいのに…。

投稿者 ogre : 2006年5月28日 18:55



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