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2006
05 09(火)

立食師列伝

[ 銀幕是即異次元之扉:Movie&TV]

公式サイト

押井守原案・脚本・監督作品。
圧倒的な情報量で叩きつけられる「嘘のドキュメンタリー」。映像技術の無駄遣い。徹底的なまでの楽屋オチ。吹き荒れる引用と流用の嵐。(これらは全て褒め言葉です。)

プロデューサー石川光久が不用意に漏らした「好きなものを撮らせてあげる」のヒトコトに飛びついた押井守が、そんな機会がなければ絶対に映像化などできなかったであろう立食師の物語を嬉々として作ったであろう事は想像に難くない。真実の歴史の上に嘘の歴史の塗り固め、次から次にネタを繰り出す作業はさぞ楽しかったであろう。事実、それはクリエイターと観客の間に店主と立食師との関係に相似した緊張感を生み出している。即ち「おまえらにこの話の意味、分かるの?」という圧力として。それは劇場を埋め尽くしたオタクの群れのあちこちから散発的に発せられるクスクス笑いとなって発散されることになる。

…とまあそんなコアな見方をついついしてしまうほどの「濃い映画」でした。喋り続ける山寺氏のナレーション、「スーパーライブメーション」によって撮られた暗い画面。時代を追いかけるドキュメンタリーの手法で「立食師」たちの(嘘の)物語が語られていきます。その流れの中にネタが山盛り仕込まれているのだから、コチラとしては気が抜けない。
ここでいう「ネタ」というのは、たとえば他作品(わかりやすいところではダイコンフィルムの庵野版「帰ってきたウルトラマン」。庵野新マンが出てきたときにはハイネケン噴いた)からの引用であったり、実在の作品のオマージュ(村上春樹「パン屋襲撃」は2度も引っ張られてました)であったり、乙一氏ら有名ライトノベル・SF作家陣のカメオ出演であったり、あるいは語られる時代背景を切り抜いた1カット(万年筆の路上販売とか)であったりします。それぞれ笑えたり、びっくりしたり、「ああ、そうなんだよな」と納得してみたりするものなのですが、とにかく「嘘の歴史」を構成しようとする膨大な情報量の中にこれらを詰め込んで破綻なくすませているのはすごい手腕だと思いました。多分、ただの実写や純粋なアニメでは不可能だったでしょう。この物語を語るためにスーパーライブメーションという方式すら編み出した、とも思えます。

戦後の混乱期から時系列で進んでいく物語ですが、70年代を過ぎたあたりで一旦軟着陸し、それから「新世代」の立食師たちの話に変わっていきます。押井守自身も「それ以降は何もなくなってしまった」と語っていますが、牛丼チェーン、ハンバーガーショップ(ロッテリアはよく実名を出したな…)をターゲットとした立食師たちからは、かつての(?)立食師が持っていたロマンが消え、「食のテロリズム」と化しているあたりが印象的です。飽食の時代やグローバリズムに対する警鐘、アンチ精神と考えられなくもないですが…あまり考えすぎると術中にハマる気がします。

ぶっちゃけ普通に映画を観て楽しみたい人とか、押井守作品に全く思い入れがない人とかにはお勧めしません。「で、なに?」みたいな感じになってしまうかと。かなり観る人を選ぶ作品には違いありません。

それにしても、公開場所がシネクイントということで、渋谷パルコPART3のエレベーターと階段とエスカレーターを埋め尽くすオタクの群れ、というのはなかなかシュールな光景だったかも。(<そのうちの一匹が何を言っているか。)

投稿者 ogre : 2006年5月 9日 23:09



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コメント(2)

CMを見る限りではオタク向きなんだろうなぁ?と思ってましたが、やはり・・・なんですね。(^^)

どうでしょう、映像表現とかにも面白みがありますし、物語は戦後社会に対する押井氏なりの解釈ではありますから、そこにも面白みがあります。
「隠しキャラ」を多くしすぎてそっちがメインになっちゃった、というキライはありますが…。

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