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2008
03 01(土)

その暗闇から手を伸ばす

[ 五次元的思考之蒙昧:Diary]


遮幕(カーテン)の隙間から漏れる光に手をかけ、眠りという安寧の泥沼から意識を引き起こす。ドロドロとした睡魔の残滓を払うように頭を振るが、脳を細紐で幾重にも緊縛したような、脈動を伴った懊悩は消えそうにない。
溜息をつくと、ベッドサイドのグラスに半分残った水を飲み干し、その傍らにあるピルケースを憎々しげに睨みつける。この泥縄の正体は、おそらくはこの薬なのだが、しかし、この薬を飲まなければ生命を維持するのに必須の活動さえままならない。量を減らしてみたこともあったが、効き目は悪くなるくせに副作用はちっともマシにならず、それ以来、同じ事を繰り返してはいない。

ベッドに起き上がった姿勢のまま、ギュッと目をつぶって自分の内側を観察する。手足の先は冷え切って温かいシャワーを要求し、筋肉はは強ばって動かす度に切れる音が聞こえて来るようだ。身じろぎすると関節がキィキィと音を立て、耳の奥で虫の羽音のようなハム音が小さく響く。
頭痛は一向によくならず、それどころか、鼻の奥をヒリヒリと焦げ付かせるような感覚が、昔の記憶を思い出すときのようにじわじわと広がってきていた。

暗闇でぐるぐると目が回るのを感じて目を開ける。一瞬揺らいだ感覚が、固定された外界の風景によって静止され、行き場のない意識の慣性がつんのめるようにして脳を揺さぶる。眼底から鼻の奥に広がる違和感はいや増している。ヒスタミンが血管を押し広げ、昂進した血圧によって細胞内にじわじわと血液が浸潤するのがわかるようだ。

だめだ。今日もだめだ。

もう一度枕元に目をやり、残った薬を手にする。新しいペットボトルのキャップをひねり、手の中に取り出した薬をもう一度見やった。
命をつなぐための薬、しかし、これを飲んでしまえば今日一日は半死人も同じだろう。脳は機能せず、意識のないゾンビのようになってしまうに違いない。
しかしそれでも息ができるだけゾンビよりじゃはマシかもしれない。意を決し、薬を口に放り込んで飲み下した。

もう一度溜息をつき、意識を闇に引かれる力を感じながら、宿命ともいえる業病が、いつかはなくなる日を夢見た。

この、


花粉症が。

投稿者 ogre : 2008年3月 1日 15:39



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