04 14(木)
太陽の簒奪者:野尻抱介
[ 二次元的行間之隙間:Book]
太陽の簒奪者 野尻抱介
Jコレクションシリーズ版が出た時には「へぇ〜、星雲賞ですかぁ〜、でも大きいからいいや(を」という理由で保留した「太陽の簒奪者」が文庫で登場。ま、紹介文はアマゾンあたりで読んで頂くものとします(を
さて野尻抱介氏といえば、「ヴェイスの盲点」にて作家デビュー、とされていますが、その出自は今は無きゲーム企画会社「ホビー・データ」の実施したネットゲーム(メイルゲーム)「クレギオン」におけるゲーム・マスターです。これは、プレイヤーが郵便で自分のキャラクターの「行動」をゲームマスターに提出し、ゲームマスターが各キャラクターの行動を取りまとめてストーリーとして送り返す・・・というシステムで、約1年で1ストーリーが完結するという今にしてみれば気の長いゲームです。もちろん、インターネットはおろか、パソコン通信だって「一般的」と言える時代ではありませんでした。参加者達は郵便・電話・FAX・オフ会を通じて交流し、ある者は物語の焦点へ、ある者はその辺縁でダラダラとすごすという愉快なゲームでした。
さて、当時自分も「クレギオン」に参加し、たまたま「野尻マスター」にあたったのです。(もちろん当時は有名作家ではありません。)なので、ある意味「ヴェイスの盲点」以前から「野尻ワールド」に触れてきた、という自負もあります。
以前、小説「クレギオン」シリーズの序盤で、自分は「あれは長い「リプライ(ネットゲームでマスターから返される物語」だ」というイメージを持ちました。それなりの枚数があるにもかかわらず、イマイチ盛り上がりに欠ける文章、キャラクターは立っているのに「台詞を読んでいる」以上のイメージが持てない感じ。じゃあつまらないかというとそういう訳ではない。その違和感の正体が、この「ハードSF」によって明らかになりました。
そう、この物語は「ハードSF」なのです。近未来を部隊にし、そこに住む人類は今から想像しうるだけの能力しか持っていない。宇宙を望遠鏡で覗き、核エンジンがやっとこさで、太陽系開拓など想像も出来ない人類。そこにはミュータントや超空間航法といったスペース・オペラ的な存在や、巨大ロボットや宇宙戦闘機のようなSFアニメ要素も全くない。もちろん美少女も天才科学者も正義の宇宙人も一切なし。その極限までに絞り込んだ「リアリティ」。(それでいて後書きでは「でも嘘をついてしまった」と吐露する。)ただそれを淡々と書き込むために、思わずそのノリについて行ってしまう。なんだか盛り上がりに欠ける人間模様も、イマイチ浮かんでこないキャラクターも、その流れに乗っていってしまう。(もしくは、両立させるコトが不可能だったのか・・?)
ある意味強引な力強さ。それを可能にするだけの(色恋や人間離れしたキャラクターを必要としない)筆力は恐るべきものだろうと思う。
クレギオンシリーズで、巻を追う毎に、愉快なキャラクターに押し立てられるように物語に起伏がついてきた(=自分は方向だと感じた)と感じていたのだけれど、「真のSFにそんなものはいらない」と言わんばかりの野尻節。10年以上前、惑星フラードルで「BARくびながりう」を閉店に追い込んだ時、野尻さん、あなたは確か、似たようなことを言っていましたよね。
野尻抱介という作家さんにはがんばって欲しい。でもどういう風にがんばって欲しいのか、残念ながら今の自分には上手く言いあらわせない。仕方がないので「クレギオン」シリーズを読み返すことにする。
投稿者 ogre : 2005年4月14日 00:45
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