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2007
05 03(木)

神は沈黙せず:山本弘

[ 二次元的行間之隙間:Book]

神は沈黙せず〈上〉
角川書店
山本 弘(著)
発売日:2006-11
おすすめ度:4.0
神は沈黙せず〈下〉
角川書店
山本 弘(著)
発売日:2006-11
おすすめ度:5.0
Amazy

上記のおすすめ度は、Amazonのおすすめ度です。

SF/ファンタジー作家として名高く、最近では「と学会」会長として有名な山本弘氏が、今挙げたすべての立場をひっくるめたような作品を書いた。その文庫化が、本書だ。

UFO、幽霊、超能力、奇跡、UMA、その他のフォート的現象……。そういった超常現象が嘘や幻ではなく、それどころか個別独立のものですらなく、ある意志の下に発生しているものだとしたら?という仮定に基づいたストーリーは、一見荒唐無稽なものに思える。しかし、SF的「事実」によって簡単に裏打ちされるだけで、あっさりとその現実味を増してきてしまう。我々がこの世界に対して持っている認識など、しょせんその程度のものだよ、と言われているようだ。

(以下、本編に関連するネタバレを含む。)

この宇宙が実は……(この辺は超ネタバレなので自粛)……という「真実」は、映画マトリックスにも見られた、SFでは真新しい設定ではない。しかし、ゲームデザイナでもある山本氏は、ある意味、神の苦労を知っている。世界の「作り込み」がいいかげんであるくだりには思わず笑ってしまった。科学界にある未解決の矛盾点、古今東西のSF作家がアイデアのネタとし、様々な理屈をひねりだしてきた諸問題を、世界のディテールで割り切るとは、なんともすっ飛んだ発想である。

この物語は、世界と神を思考する一方で、ネットやバーチャルが政治や経済にもたらす影響についても思考実験をめぐらしている。企業が発行するポイントによる貨幣の代替、納税の拒否による国家の転覆と企業体による統治、ネットによる直接民主制、統一コリアと日本の民族(?)闘争、そしてサイバー戦争。これらは、パラダイム・シフトのいわば象徴的役割として、また、SF作家が近未来を描く上での通過儀礼的シミュレーションとして、書かれているように思う。なるほど、それなりに説得力があるようだが、本題とは外れた部分で説明不足の感がある。慣れた読者なら脳内でリアリティを補完できるかもしれないが、そうでなければ単に現実感のない「おはなし」になってしまう。作者は、世界を大きくひっくり返すためにこれら混乱を導入したのだろうが、残念ながらうまくいっているとは言いがたいようだ。
また、少し前の作品だから仕方がないかもしれないが、地球環境の変動についてはほとんどなにも書かれていない。昨今のオーストラリアの干ばつなどを見ると、「平和なオーストラリアに行って幸せ」という発想には納得がいかないところだ。山本氏は、この点について楽観も悲観も示していない(悲観していないことがすでに楽観なのかもしれないが)。

物語の中で、なにか事(超常現象)があるごとに、過去の類似事例が山盛り引き出されてくるのは、さすがにと学会会長の面目躍如か。もっとも、検証したわけではないので、この中に山本氏の創作が含まれていることは否定できない。後年、ビリーバーがここから孫引きするのを見て笑う……という、ブラックユーモアがありそうだ(笑)。それにしても、それらの引用が膨大であるため、初心者はちょっと引いてしまうだろう。先ほどの点と合わせて、あまり素人(?)には優しくない物語であるようだ。

あと、物語全体的にびっくりするほど淡泊だ。まあ、そういう性格の二十代女性による手記というスタイルをとってこの問題を回避しているのだが……ちょっと刺激が足りないかもしれない。まあ、こういう作者のスタイルなんだ、と納得するしかない。何しろ本人は「永遠の16歳」なのだから。
もっとも、最近の16歳はもっとカゲキかもしれないが。

投稿者 ogre : 2007年5月 3日 13:27



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