02 15(木)
狂気という隣人:岩波明
[ 二次元的行間之隙間:Book]
かの「都立松沢病院」に勤務経験を持つ、現役の精神科医の手による本。原著は2004年だが、内容が風化しているわけではない。
本書は一般向けに「精神障害」を紹介する本だ。内容は平易で、主に作者の経験したケースを元に書かれている。精神病理学的内容や理論的な話はできるだけかんたんにまとめ、読みやすさを優先しているように見える(ということはプロには物足りないだろう)。
しかし、描かれている内容はちょっと特異だ。体験を例題に描かれているのは、精神科救急外来や触法精神病患者、外国人患者、ジャンキーといった、普通ではあまり触れられていない、精神科の闇の顔だ。
個々のケースが訥々と語られる。中にはかなりショッキングなエピソードもある。それらが書かれているのが、抑え気味の平易な文章であるのが逆に不気味に感じる。「これくらい普通ですよ……」という作者のつぶやきが聞こえてきそうだ。
もちろん、作者は、18世紀のフリーク・ショーを展開して見せようとしているのではない。この本が暴こうとしているのは、そういった、精神科の患者の中でもとりわけ問題となるケースに対する(日本という国の)システムの脆弱さだ。特に触法精神病者(たとえば人を殺してしまった精神病患者)の扱いについて、怒りにも似た熱意で制度の欠点を指摘している。
短い本の中で、「じゃあどうしたらいいのか」という部分がはっきりとしていない感じはするが、それも淡々と書かれている文章のせいかもしれない。対立軸であるイギリスのシステムの紹介はもっと詳しく読んでみたかった(比較によって、より問題が浮きだってくるだろう)。
この本はもちろん一般向けなのだが、ケースを扱うことで(本で扱うようなケースだからそれなりに特異な訳だが)かえって誤解や偏見を持たれてしまうリスクはどうしても存在する。もちろん作者も丁寧に、誤解のないように書いているはずだがこればかりは(読者の取り方ひとつなので)仕方がない(自分もそうだが)。宿命のようなものだ。
しかし読者としても、できるだ客観的で普遍的な知識を身につけなければならない。良書を誤解しないようにしっかりと読んでいきたい。そしてできるだけこういう場で紹介していきたい。
投稿者 ogre : 2007年2月15日 01:34
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