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10 29(日)
サイコダイバー毒島獣太:伊藤ケイイチ
[ 二次元的行間之隙間:Book]
夢枕獏のサイコダイバー・シリーズに登場するフリーランス(モグリ)で超一流のサイコダイバー、毒島獣太(ぶすじまじゅうた)を主人公とするコミカライズ作品。とはいえ小説のコミカライズというわけではなく、あくまで設定だけを持ってきている形。小説本編との設定的整合性も特に考えられていないので、外伝的な扱いとも違う。あくまでコミックのオリジナル要素が強い。
夢枕獏氏の原作コミックといえば、一番成功しているのは格闘物の「餓狼伝」だろう。アニメ化もされた。翻って氏のもう一つの貌(かお)である伝奇小説の方は、あまりコミック化に成功した作品はないように思える(これまでにも「闇狩師」シリーズがコミカライズされているが…)。原因の一つには、原作が持つ、空気の濃密さとでも呼べる雰囲気をなかなか再現できないことだろう。独特の「獏調」で語られる語り口、それがこの世ならざるモノや深層心理の底に沈んだ想念を表現していくのだから、それを絵にするのが難題であることは想像に難くない。せめて殴ったら倒れるような相手なら描くのにもいいのにね…。
しかも、主人公の毒島獣太は非常に癖のあるキャラクターだ(まあ、夢枕獏の主人公級がアッサリしたキャラの訳がないのだが)。正直言って手に負えない。しかし、マンガ化するとどうしてもコメディタッチになってしまう。まあ、原作もそんな感じがあるが、それにしたって崩しすぎだろう(狙っているのだろう、とは思うが)。キャラクター的にも絵的にも「バスタード!」のダーク・シュナイダーと大分かぶっている(ご丁寧に八重歯まで…)。毒島獣太が超絶音楽センスの持ち主であるあたりが使われているが、やはり文章で表現されるような重厚さが感じられない。原則的に1〜2話で完結させているので、もっと掘り下げて欲しいところ(サイコダイブで明らかになる、相手の心の秘密など)が描き切れておらず、話に深みがない。呪いの出てくる話でも、呪われた原因や背後関係は不明なままだ。ストーリーが弱すぎる。今後描くつもりのある何かの複線かもしれないが、まあ、回収できる保証はないしね…
ディテールが描き切れていないところも気になる。一流ホテルのスイートルーム(という設定の部屋)にミニ冷蔵庫を置いておく感性はちょっとどうかな(笑)。打ち合わせで泊まったビジネスホテルでも資料にしたのだろうか。毒島がピアノの前に座って「ぽろぉ〜ん」っていう効果音は、ヒネリのカケラぐらい欲しかったところだ。
本作は、残念ながら偉大な原作の陰に霞んでしまった。もっとも、原作がなかったら買わなかったと思うけど…
投稿者 ogre : 2006年10月29日 13:30
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