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09 26(火)
神様のパズル:磯本伸司
[ 二次元的行間之隙間:Book]
卒業の危機にあるダメ学生と天才と謳われミドルティーンにして物理学を極めた少女・穂瑞が「宇宙を作ることはできるのか?」という究極の疑問に挑む…というとデカそうなはなしだけど、結局のところ穂瑞が1人で喋って解説し、無知で哀れな読者の代弁者たる主人公が分からないナリについていく、という展開。穂瑞の基本設計(9歳の時の理論!)になる、ビッグス粒子発見のために建造されている巨大加速器と「宇宙を作ることはできるのか?」という究極命題。行き詰まった天才は活路を見いだすことはできるのか…?まあ、見いだせなければ話にはならないんだろうなぁ、というところでは、ある。
(以下、ネタバレを含みます)
語り部・綿貫の一人称(日記形式)で話は進み、ゼミの教職員・同級生の面々との薄い関わりの中で主人公と穂瑞は関わっていく訳なんだけど、序盤は天才・穂瑞をどうやってゼミに誘い出すか、という所から、穂瑞の能力、キャラクターを認知させ、そんな少女に腹立ちながら翻弄されている綿貫を描く。最初の邂逅で、穂瑞が綿貫の人物像をシャーロック・ホームズ的に語ってみせる場面があるけれど、「ああ、これで加速器のリング内で密室殺人事件とか起きれば面白いのにな」と思った。起きなかったけど。
中盤は現代物理学へのイントロダクション。宇宙論とか量子力学について書かれたNewtonとかが楽しく読める人でないとキツイだろう。なんというか、綿貫が非常に魅力に乏しいというかなんというか面白くない人物像で明らかにキャラ負け。リアル路線を貫いていったつもりなんだろうけど、イマイチストーリーの盛り上がりに欠ける。特に穂瑞との人間的な接触は意図して深められていない。これが結末に向かっての違和感に繋がる。
穂瑞が「宇宙の作り方」についての理論を思いつき、それをシミュレーションするあたりから物語は後半になる。それと同時にリアルだった話がだんだんと大言壮語の部類になってくる。いや、もっと言えばホラ、だ。
仮想としての力の統一理論ぐらいまではいいんだけど、それをコンピュータにぶち込んで宇宙開闢をシミュレートし(まあ、それもいいや)、そこから全宇宙・生命と文明の起源と発展まで描き出そうとするあたりはアイデアが突出して破綻している感じ。それを現代の延長線上にある技術で書いているから「圧縮すれば大丈夫だ」という穂瑞の言葉にリアリティが一気に失われる。まして、その中の文明が創造主すら思いつかなかった技術を発明するあたりは理屈がぶっとんでいる。…人間以上の発明をする人工知能を発明したのと同じコトだろう、それ。
その後、穂瑞にしか分からない本人の葛藤のために破滅的な行動に出て、また原因がよく分からない事故?によって危機一髪、必然性の有無が分からない失踪と再会。最後には普通の女の子になってメデタシメデタシ…。まあ、天才の、それも16か7の女の子の考えることなんかわかりゃしないやって言えばそれまでなんだけど、語り部・綿貫がそれらにとにかく関与しない。というか、物語中の誰もが関与しないところで主人公級たる穂瑞が勝手に変わって適当に落ち着いてしまう。「んじゃあ今までの話は結局なんだったんだよ」みたいな気分で大変に座りが悪い。最後の方になると「普通の人の普通の日常が一番大事」みたいなことが書かれてたりして「普通の日常が見たかったら巨大粒子加速器と天才少女が出てくる本なんて買わねぇよ」みたいな。なんで説教されないといけないの?いろいろ寓話めいて話すんだったらいいけど、びっくりするほどあからさまだよね。腹立ちます、こういうの。
この物語の根本的な問題は、せっかくの面白いキャラクターの人間性が深められていないからだろう。いや、深めているつもりだと思うのだが、そういうのは物語の途中からじわじわとやっていかないといけないのだ。急転直下でトラウマが噴出したって「聞いてないよ!」と思うしかないのだ。ご斉田と藁葺き小屋・お婆さんのエピソードも、クラッシックを聞くエピソードにしても、もっと叙情的に描くことはできたはずだ。「何度も出しているから複線だとわかるでしょ?」程度の扱いしかされていないのは残念だ。読みが足りない?努力が必要な読書はしないことにしているので。
…だいいちがなぁ、愛情もない匿名の精子提供者と母親が、実の子どもが間にいるからって仲良し家族になれるものかよ。ああ、絶対になれるものかよ!!こういうのをご都合主義のと呼ばずしてなんというのか。
思うに、物語的には、貴重なキャラクターを1人殺したことになるだろう。キャラを愛すが故の扱いかもしれないが…。
ああもう、しかし、イライラするなぁ。カタルシスがないのでとてもフラストレーションが溜まるのだ。こうなってくると、あざとくアニメ風の表紙にしている戦略も気になるし(まったく、日本のSFは何処へ逝ってしまうのか)、「映画化決定!」というアオリも「いったいどうやって!!(まあ、ハルキだからな(クスリのせいか?))」としか思えませんな。
いっそのこと、もう、世界観ひっくり返してこのキャラでラノベ展開でもすればぁ?という投げやりな感じになってきたのでもう止めることにします。
投稿者 ogre : 2006年9月26日 23:58
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