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05 14(日)
忘却
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「忘れていたっていうの?」
もちろん、完全に、断片すら残さず、前世の記憶よりも(そんなものがあるとすればだが)忘れていた。
「…あきれた。あなた昔、なんて言ったか覚えてる?「この日だけは絶対に忘れない。1年後の今日という日も絶対に忘れない」って、そう言ったのよ?どこで言ったか、場所も教えてあげましょうか?」
必要ない。場所なんて、そこであった出来事以上に重要だとは思えない。もちろん、言った内容を覚えていないのだからその前後に言ったことを覚えているはずもない。
「いっつもそう。私にとって大事なことだって、あなたは全然覚えてないのね。」
いつもそうだ、というのは誤解だ。必要がなくなったから覚えていないだけだ。君は三輪車に乗っていたときの事を覚えている?どんな気持で三輪車に乗っていたのか、どうして乗らなくなったのか。
「…きっと、大きくなって三輪車に乗れなくなったんじゃないの?」
理由はともあれ、三輪車に乗れなくなれば三輪車が楽しかった事なんて忘れてしまう。おそらく乗っていたことすら忘れてしまう。”みんなが乗っていたから自分も乗っていただろう”、それくらいのものだ。
最近、三輪車に乗ったことはある?ない、そうだろうね。あれはあれで結構難しい乗り物なんだよ。今となってはね。
三輪車に乗れなくなれば、三輪車のことは忘れる。三輪車の乗り方だって忘れる。乗っていたかどうかだって本当は覚えていない。
「私はあなたにとって、その、三輪車だっていうの?」
君が、というわけではない。一般論だよ。つまり、世の中には三輪車みたいなものが沢山あって、それらは忘れ去られる運命にあるのさ。それはどうしようもないことなんだよ。三輪車のことを忘れるように、なにかを忘れてしまうということはあるものさ。その時にどんなに楽しかったか、嬉しかったかなんて関係ない。ただ、忘れてしまう。それだけのことなんだよ。
「いつもそうやって適当なことを言ってごまかそうとしたって無駄よ。」
適当なことじゃない。まあ、ただの戯言だけど。
「何でもいいわよ。とにかく、今日という今日は許さない。」
「約束の期限は今日なんだから。耳を揃えて10万円、返してもらうわよ。」
投稿者 ogre : 2006年5月14日 14:46
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